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[小説 時] [157 泥酔]

157 泥酔

 寒さに一旦は目を醒ましたようにみえた男が、暫くすると、身体を預けるようにして凭れ掛かって来た。鉛のように重かった。殆ど意識がない上に、不用な程の巨体だった。只、僅かに足を動かしてくれることだけは救いだった。歩きながら、この季節のこの時間に、凍った路を泥酔した肥満体と一緒にいる理由を考えていた。

 何もなければ、この男の肩を支えながら歩くようなことはなかった違いない、何もなければ、今夜のどんな酒よりも遥かに気の利いた酒を飲むことができた、何もなければ、・・・何も起こる筈がなかった、・・・。

 凍った路に足を取られながら狭い路地を抜けた。暗がりから出て来た者にとっては充分過ぎる程に明るい通りに出ると、・・・男は急に歩くことを止めてしまった。引き摺って歩くにはあまりにも重過ぎた。街灯が疎らに並んでいた。肩に回した腕を離すと、男は力なくその場に座り込んでしまった。

 雪を額や頬に擦り付ける、それを何度か繰り返すと、驚いたように目を開けた。肩を貸して立ち上がらせると、二三歩は歩くことができた。しかし、それ以上は無理なようだった。すぐに腰を降ろし、手を離せば横になってしまう、・・・。何度か同じことが繰り返された。そして、結果はその度に同じだった。

 手を貸してくれる者はなかった。何の音もない静かな街だった。

 街灯に寄り掛からせてみた。それでもすぐに、だらしなく転がってしまう、・・・。もうこれ以上は無理かもしれない、・・・此処まで辿り着いたと云うのに、諦めなければならないのだろうか、・・・。この日のためにどれ程耐えようとし、そして、耐えて来たろう、今、その全てが、無に帰そうとしている、何かできることはないのだろうか、少なくとも、前へ向かって踏み出すために、何か、・・・。

-Aug/1/1999-

・・・つづく・・・



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