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[小説 時] [116 丹精]

116 丹精

 今の僕にできることは、あまりない。・・・どうすれば良い?
 わたしって、我儘?
 気が立つのは分かるよ。だけど、もう少しなんだ。
 ・・・ごめんなさい。
 もう良いよ。・・・お互いに、これまで丹精を込めて来た実を、やっと手に入れることができるところまで辿り着いたと云うのに、それを他のことに気を取られて見過ごすしてしまうなんて、馬鹿気てる。これまで犠牲にして来たものをすっかり無駄にしてしまうなんて、馬鹿気てるよ。
 それでも良い、・・・。
 そんなことはないよ。お父さんが言ってた。今、君の手には小さな瓶が握られている。それには問題が一つ詰まっている。だが、それだけじゃない筈だよ。君にはもう一つ同じような瓶がある筈だ。それは何処へ行った?・・・二つを並べてみたことがある?
 ・・・・・。
 お互いに頭を冷やす必要がありそうだね。・・・今日は帰るよ。・・・一人になったら、二つ並べて、良く見較べてみるんだよ。目先のことばかりに囚われないで、これから先も後悔しないで済むような選択をして欲しい。君には、充分にその能力があるんだから、・・・。先に栓を抜く瓶が決まったら、お父さんに電話をするんだ。とても心配してたよ。できるだけ早く、安心させてあげなさい。
 本当に帰るの?
 問題を抱えているのは、君だけじゃないんだよ。・・・そう、・・・その時にでも、お父さんに伝えて欲しい。・・・もう器を替えている時間がありませんって、ね。
 何?
 その通り伝えてくれれば、きっと、お父さんには解るよ。
 そう。
 それじゃこれで帰る。
 約束、・・・。
 大丈夫。忘れない。

 自分は、二つを見較べてみたことがあっただろうか、目先のことばかりに囚われ過ぎてはいなかっただろうか、そして、それはこれから先も後悔しないで済むような選択だったのだろうか、・・・しかし、今それを言い出すのは馬鹿気ている、・・・時間を元に戻すことができる機会を無視したのは自分だった、しかも、それこそは自分自身が望んだことだったのだ、・・・!

-Apr/5/1998-

・・・つづく・・・



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