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[小説 時] [64 代価]

64 代価

 彼は、犠牲者だった。
 だって、・・・そんなこと、・・・。じゃ、誰なの?
 知らない儘で済ませられるんなら、敢えて知る必要はないことなんだよ。
 どうして?・・・あなたに知る必要のあることなら、わたしにも必要なのよ。だって、あなたはわたしの一部なんだから、・・・。

 新聞の記事や巷の流言は、幾つかの嘘を買い取るために意識して造られたものだと云うことだけを、覚えておいて欲しい。それ以上のことを知っても、不愉快になるだけだ。
 そんな、・・・。本当なの?
 何も言えないんだよ。
 信じられないわ。
 信じられないことは幾らでもある。
 じゃ、わたしが想像した通りで良いと云うことなのね?
 恐らく、ね。・・・只、あまり深入りしないで欲しいんだ。・・・それでなくても、良い加減うんざりしてる。こんなことは、一人でたくさんなんだよ。

 そんな話を誰が信じると思う?
 他の人に信じて欲しいとは思っていない。信じていて欲しいのは、君だけだ。只、・・・できるなら、無理に知ろうとはしないで欲しい。・・・時間が必要だと云う理由を理解して貰えれば、それで充分なんだから、・・・。
 勝手な人ね。
 今までの話の半分以上は、単なる憶測なんだよ。・・・それ以外に、話したいことは山程もある。それを口に出せれば、こんなに楽なことはないだろうと思うよ。
 話して。・・・そうすれば楽になれるんでしょう?
 だが、それを裏付けるものは何もないんだ。・・・これだけで、我慢して欲しい。
 嫌よ。・・・だって、そうでしょう?・・・あなたは、説明してくれるって約束したのよ。それなのに、聞きたいことに、ちっとも答えてくれないじゃない!
 今は、これ以上の話をする心算はないんだ。・・・不満だろう。それは解る。だが、これ以上のことは、やはり、本人が明らかにすべきなんだよ。そのために、一年、・・・貴重な一年だ。・・・しかし、待ってみようと思う。・・・期待した結果が得られない時は、貴重な時間を浪費した責任を含めて、代価を、今度のことで持ち出したものの全てに、見合うだけの代価を、支払って貰う心算だ。

 電話じゃなかったら、きっと、顔に痣ができてるわよ。
 そうだね。でも、これ以上のことは話せないと云う辛さを、分かって欲しい。
 とても無理でしょうね。
 無理だろうね。

-Nov/8/1997-

・・・つづく・・・



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