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[小説 時] [13 列車]

13 列車

 ホームに昇ると、すぐに電車は滑り込んで来た。そこでは、意志を持たない人の塊に、只、押し戻されまいとする努力だけが要求された。自分が何処にいて何をしようとしているのか、それすらも確認する余裕を与えては貰えなかった。

 閉じられた異様な空間で、切符を握った儘、身動きができない程の混雑に耐えながら、どんな場合にも、どんな時にも、自分の思い通りにならないことが確かにある、事実、今は自分の手足でさえ、どうすることもできない、・・・だが、この間にも事態は前へ前へと進んでいる、・・・と考えていた。

 人は、電車が駅に着く度に、流れ、逆い、淀んだ。

 乗り込んだ列車は、それまでの混雑が嘘のような空きようだった。息を整えながら、窓際の席に腰を降ろした。列車はすぐに動き出した。

 動き出して暫くすると、車両の中に充満していた喧噪が、後ろの方へ、少しづつ、移動して行くのが分かった。そして、何も無くなった空間を埋めたのは、不安と焦燥とだった。それは、波のように、交互に、退き、又、寄せて来た。その単調な、しかし、確実な運動は、乗り換え駅に着くまでの間、終始止むことがなかった。

 朝の混雑が終わった後の駅で、乗り換えの列車を待った。

 此処では、誰も急がない、・・・。いかにも弛緩したように見える風景と、僅かばかり前に見た風景との落差の、あまりの大きさに不安だった。

 時は過ぎた。しかし、針は、歯痒い程に、遅々として進まなかった。

 乗り換えの列車が到着したのは、それから三十分程もしてからのことだった。

-Aug/27/1997-

・・・つづく・・・



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